戦闘民族の獄

きゅーぽけ所属 モンローです

カラオケに行った話

私はそんなにカラオケが好きではない。

歌が下手なので他人に聴かせたくないとか、人前で歌う曲が無いだとか、決してそういった直接的なものが理由ではない。

 

目には見えないカラオケの決まりごとのようなものが好きではないのだ。また、カラオケに纏わる惨たらしい事件があった。そちらの方がきっと、カラオケを苦手たらしめる大きな原因に相違ない。

 

大学1年生の時であった。私はバイト先の同僚3人とカラオケに行くことになった。

 

【登場人物】

私:邦人。男

 

アロマ:最近アロマテラピー検定2級に合格した。バンドのボーカル。男

 

19号:ドラゴンボールに登場する人造人間19号に限りなく容姿が似ている。生物学上は女

 

マダ子:遊戯王カードのマーダーサーカス・ゾンビに限りなく容姿が似ている。アカペラサークル所属。ゲノム的には女

 

 

 きっかけは何だったか忘れてしまったが、兎にも角にも私達はカラオケに行くことになった。私の持論として、余程仲が良いか趣味が共通である以外は、歌唱力の釣り合わない者がカラオケに参加すべきではないというものがある。それ故に何度かそれとなく断ったものの、19号の戦闘力とマダ子の攻撃力の前には為す術があるはずもなく、半ば強引に連れて来られてしまったのだ。

 

程なくして、私はこれが通常のカラオケとは大きく異なることに気づいた。

当時、『アナと雪の女王』という映画がトレンドであり、その主題歌である『Let it go』が大流行していた。

 

マダ子は部屋に入るや否やデンモクを手に取り、『Let it go』を入れた。なるほど。歌いたい曲は他人に取られないうちに先制で入れるに限る。アカペラサークルで鍛えただけあって、歌は素晴らしく上手かった。それと同時に、やはり私のような凡庸な喉を持つ者が来るべきではなかったと如実に感じた。

 

マダ子が熱唱している間、アロマと19号は無表情でデンモクにIDを打ち込みログインしていた。そう、これは3人の戦争なのだ。如何にして高得点を出すか。如何にして場を支配するかのマウンティング合戦なのだ。恐らくだが、私は審判としてここに呼ばれたに違いなかった。

 

マダ子が歌い終わり、私達は一同に口を揃え、「上手かった」だの、「声量が凄い」だのおべんちゃらを言う。こういったマナーも私がカラオケを好まない1つの理由である。

 

いつの間にかアロマが曲を入れており、ターンが移った。あろうことかアロマは洋楽を入れていた。1人カラオケなら洋楽は許されるが、集団で来ている場合には極力皆の知っている曲を歌うのがマナーというのが世の常であるため、この洋楽の参入は場を白けさせた。 

 

しかしながら、やはりこれは戦争なのだ。自身を最も際立たせることの出来る曲を選択するのは至極当然である。

 

そして19号の番となった。私は嘗て無い衝撃を受けた。『Let it go』は2パターン存在し、先程マダ子が歌ったのは日本語版であり、今しがた19号が入れたのは英語版である!

いきなりぶつかり合ってきた!同じ曲を決して入れてはならない+洋楽は入れてはならないということがコモンセンスなため、突如として重ねられたタブーに私達は酷く面食らった。さっきも洋楽だったし、厳密には違う曲だから別に良いでしょと言わんばかりのツンとした顔で、19号はご丁寧にも振り付け付きで歌っていた。

汚らしい人間のありのままの姿をまざまざと見せつけられた。

 

部屋の空気は最悪になった。私は皆の知っている当たり障りのない演奏時間の短い曲を選び、素早く番を流す作業に徹した。

 

暫くするとマダ子はトイレに行った。すると透かさず19号が「マダ子絶対自分が1番上手いと思ってるよね。嫌な感じ」と言い放ったのだ。

破壊の限りを尽くした19号に私とアロマはうんざりした。空気は更に静まり返ったが、皆自分の番になると腹の底から歌を歌う。 空虚な空間には美しい音色が聞こえ明るく反響していた。

 

19号やマダ子が連続で曲を入れだし、収拾がつかなくなりはじめた頃、まるで助け舟を出すかの様に残り10分だと店員から電話が掛かった。

 

モンスター達は最後まで戦い抜いた。ユーモアの墓場である『君が代』を2曲連続で歌い上げ、地獄の様なカラオケは幕引きとなった。

 

それから私達は二度とカラオケには行かなかったし、一度たりともカラオケの話をしなかった。

 

 

結論として、カラオケはやはり仲が良いか趣味の合う者同士で行かなければ面白くない。忘年会シーズンが迫って来ている中、皆さんも一度考えてみて欲しい。

 

因みにだが、この一年後に私は19号から大変な目に遭わされることとなる。これはまたいつか記そうと思う。

 

終わり